西安へ二胡検定の旅

南 暁

隋・唐の都として栄えた長安(今の西安)を紹介するテレビ番組を観ていた。 画面の背景音楽として今まで聴いたことのない情感溢れる音色が流れている。 何だろうこの楽器は! 後で調べてみると、それが中国の二弦の民間楽器、二胡である事が判った。 心の琴線に触れられた思いで即断即決! 二胡教室に通い始めた。

一曲でもいいから好きな曲を「自分で音を出し弾けるようになれたらいいなぁ」との思い二胡を習い始めてから 8年。 なかなか自分が思い描く音色が出せないもどかしさを感じながら惰性に陥ってゆくような気がしてならない。そんな時、先生から二胡検定の話があった。 そうだ! このモヤモヤした自分自身に一喝を入れよう! 原点に返りスイッチをいれかえたい! そんな思いから検定試験に参加を決めた。

シュウミン先生の特訓も受けながら、毎日スケジュールを定め課題曲と練習曲を繰り返しさらった。 同時に体力維持のためにストレッチ、太極拳、左手指握力強化器具も使いながら最良のコンディションづくりに注力。 家では何かと集中が出来ないため、近くのカラオケ店が練習場所になる。 最初は変な楽器を担いで来るおじさんを見て、カラオケ店員も怪訝な様子であったが、終いには仲良くなって練習に最適な部屋を割り当ててくれるなどの協力をしてくれた。 何より、検定試験という大目標があるおかげで生活環境にも変化が生まれ、久しぶりに充実感を感じることが出来た。そうしていよいよ出発の日を迎え、勇んで西安へ旅立った。



試験前日(7月13日):

・西安城郭を散策

午前中、西安行きを決めた時から、是非訪ねてみたいと思っていた城郭を散策。西安は城壁が残っている数少ない都市であり、城都と呼ばれている。 古に栄華を誇ったこの街の城壁は南北2.5Km東西4.2km、高さ幅とも12mあり、自転車で走る事も出来る。 まさにここがシルクロードの東の起点になった場所である。 東西の古代文明に思いを馳せながら西に延びる道を見ながら往来で広がる遥か昔の賑わいが感じ、束の間のロマンに浸る。

・午後〜夜 西安音楽学院で音楽鑑賞と交流会

三年に一度開催されるという陝西省民族楽器オーケストラによる演奏とコンクール。 会場となった学院ホールには本来、審査員と楽団員、関係者以外の一般人は入れないのだが、シュウミン先生の「顔」と主催者側の特別な計らいで特別に入場させてもらう。 ここで素晴らしい演奏の数々を聴くことが出来たのは真に得難い体験であった。深謝。

夜は学院の二胡専攻トップクラスの学生さん達との交流会。 学生一人ひとりの個性溢れる溌剌とした演奏と、ユニークな合奏(リムスキーコルサコフの熊蜂の飛行?)を堪能。その後は全員での日中合同演奏。更に、小グループに分かれて個々の学生さんを囲んでの意見交換会に。 隣に来てくれた学生さんにお願いして明日の検定試験の曲を一緒に弾いて貰うなど、大変に楽しく有意義な時間を過ごした。 さあ、いよいよ明日は試験! 力まずリラックスして臨めると良いな!


検定試験(7月14日):

西安音楽学院の広大な敷地内を歩いて試験会場へと向かう。午前9時。 試験開始は午前10時。皆で控え室に入ると小一時間ほどの待ち時間の間それぞれに練習を始める。そうするうちに次第に緊張感が高まるのを感じる。 よぉーし! ここに至ってジタバタしても! 課題曲の練習は一切止めて、何も考えずにリラックスする事に専念することにした。 おもむろに「開放弦と音階のみの練習」に切り替え、全弓、長弓で悠然と弓を動かし続けた。

・午前10時 検定試験開始。

試験官の先生方が入室され、私達も順番に試験会場に入る。 私は二番目。シュウミン先生の言葉「歌うように弾く」を教訓に、曲が作られた時の雰囲気を想像し心で歌いながら弾き始めた。

初〜中盤までは思いの外落ち着いている自分に気づいた。 しかし、後半に至ると、あぁ〜・・どうした! 右手の動きがおかしい! 緊張し始めたぞ!! 深呼吸すれば直るが、そうすると演奏が止まるので出来ない! カラオケ店での練習時に自分なりに試してきた弾き方を思い出し、弓をいっぱいに使い、肩の力を抜く様に努めた。そうこうするうちに何とか演奏を終えた。 身体の中にあった重たい鉛がすーっと抜ける様に感じた。


後で試験官の先生方からいただいた考課評には「演奏は流暢であるが、左腕肩の動きが硬く左手の動きがぎこちない」「左右の手の動きが同調してこそ良い演奏ができる」とある。左手のスムーズさが欠けていたのは自分でも分かっていたつもり。弱点をズバリ指摘された格好だ。けれど少しもめげたり、悔しい思いはしない。むしろ大変に嬉しい教示を受けた様に思う。

試験の出来栄えは必ずしも満足のゆくものではなかったが、一つの目標に向けて充実した気持ちを持ち続けながら、いろいろと試行錯誤を重ねてきた日々が思い起こされる。 それは私にとって実り多く、心の糧にもなっていた様に感じる。 この体験を生かし、自分にあった好きな曲を新たな目標に定め、これからも練習に励みたい。